はじめに


 古代の吉野について述べるとなるとまず、古代とはいつの時代をもって古代というのかを示さなければならない。一般的に日本史でいうところの古代とは、飛鳥・奈良時代から平安、そして鎌倉時代の初め、院政の成立以前までをいうが、ここでは主に、いわゆる大和朝時代(原始古代)から飛鳥・奈良時代を中心に述べてみたい。

 吉野といえば、現在では桜や修験道を思い起こす人が多いが、古代の吉野は大和国中(くんなか)の人々から見ての異郷で、神仙の住まう憧れの地でもあったようだ。では古代における吉野とは如何なる地域であったのか、どのような人々がどんな生業(なりわい)を営んでいたのか。また古代王家とどのような繋がりがあったのだろう。そして、なぜ天武や持統が吉野に特別な想いを寄せたのかを探ってみる。さらに、吉野宮はどこに所在していたのかを、筆者なりの切り口から探求してみたいと考えている。
 それではまず、吉野とは何かから始めることとする。


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