御神酒と日本酒

日本酒とは

日本酒は、一般的に「清酒」ともいわれる度数15前後のアルコール飲料である。酒類としてはワインやビールなどと同じ「醸造酒」に分類される。

 日本酒の特徴はその独特の製造法にある。同じ醸造による製造でも、ワインやビールはその原料素材の麦芽やブドウそのものに「糖」が含まれているため、すりつぶせばそのまま発酵工程を経てアルコールに変えられる。 一方、日本酒の場合は原料の粳米はそのままでは「糖」を含まないため、澱粉質を「糖」に変えるための糖化酵素が必要となる。そのため日本酒の醸造では米麹を加え、しかも、糖化と発酵を同時に進行させる高度な「平行複発酵醸造法」を用いていることが、ワインやビール等の製造と大きく異なる点である。

 日本酒の製造方法を簡単に記すと
 粳(うるち)を精米→洗米→炊く(蒸米)→米麹を加える→発酵→出来たもろみを絞る→原酒→水を加えるなど調整→清酒。と以上のような工程をたどる。

こうして製造された日本酒は、アルコール分が18パーセント前後もあり、醸造酒としては最も高い数値を示す。また、日本酒はその複雑な製造工程を経ることによって独特の「うまみ」をかもし出しているのが大きな特徴だ。この「うまみ」の原点、アミノ酸の含有比率を比較すると、ビール:1に対してワイン:3、日本酒:8と何倍もの大きな開きがある。<注1>

まことに日本酒は世界に誇るべき「味わい深い酒」といえるのではないだろうか。


日本酒の文化史

日本の古文献に於ける「酒」の初出は『古事記』だろうか。応神天皇が角鹿-つぬが-(若狭・敦賀)から大和に帰還したときに息長帯日売命-おきながたらしひめのみこと-(神功皇后)が献じた「酒楽(さかくら)の歌」というのがあり、この返歌に次のようにある。

「この御酒(みき)を (か)みけむ人は その(つづみ)臼(うす)に立てて 歌ひつつ醸みけれかも 舞ひつつ醸みけれかも …」と。また、『風土記』大隈国風土記逸文「醸酒」には、「大隈の国では、一軒の家で水と米とを備えて、村中に告げてあるくと、男女が一所に集合して、米を噛んで酒槽(さかぶね)に吐き入れて、散り散りに帰ってしまう。酒の香が出てくるころまた集まって噛んで吐き入れた人たちがこれを飲む。名づけてくちかみの酒という」ともある。古代、日本酒は「口かみ」により醸造したことが伺える記述である。

 平安時代に入り、日本酒は、現代に繋がる米麹による醸造法が確立されていったようである。鎌倉時代頃から寺院や神社が酒を造るようになり、各地の僧房が日本酒造りを始め、品質を競ったらしい。また室町時代には木製の大桶を作る技術が開発されて、日本酒の大量生産が可能になった。

 酒の神・三輪明神として知られる大神神社(みわじんじゃ)が奈良県桜井市にある。ここの地名の「三輪」について、韓国の作家、李寧熙(イ・ヨンヒ)女史によれば、
「みわ」は古代韓国語の「ミバブ」で、「水のご飯」つまり「お酒」のこと。またお酒を意味する「ミキ」とは、「ミ」は水の意で「キ」も古代韓国語の食事のこと。要するに「水食」で、つまりこれも同様に「お酒」のことだそうだ。

「日本酒」とは言われるものの、この技術は渡来系古代豪族・秦氏が日本各地に移住して伝えたものだろう。

参考文献等

<注1>『論集 酒と飲酒の文化』石毛直道編/平凡社

『古事記(中)』全訳注 次田真幸/講談社学術文庫

『風土記』吉野裕 訳/平凡社

『枕詞の秘密』李寧熙著/文春文庫

日本酒造組合中央会HP