丹生伝説(旧題/真朱の姫神)未来編

丸谷いはほ
∞、あとがき
          (ツタンカーメン預言歌/ 歌 山内光雲)

 埴生佳与は、井角建が白雲庵と名付けて引退後から侘住まいをしている草庵を訪ねた。聞きたいことがあったからである。大抵の場合は娘の真秀と共に行動しているのだが、その日は一人だった。
「質問があるんやけど、聞いてもいい?」
 佳与は、囲炉裏風の堀炬燵をしつらえた小さな部屋で、井角に入れてもらったお茶を傍らにして話しかけた。
「わたしが一番心配なのは、富士山の噴火のことなんです。……いつ噴火するんですか?」
「たぶん、ここ一年位の内に噴火すると思うよ」
「東京の方は全部アカンようになってしまうような大噴火でしょうか?」
「いや、はじめの噴火はそれほどではないと思う。溶岩が富士五湖の内、一つか二つ塞ぐ程度やろ。火山灰は東京にも降りかかるやろけどな。それよりも、その後に来る大噴火が怖い」
「その大噴火は何時(いつ)起こるんですか?」
「それは、はじめの噴火の後、六十年後の夏、七月二十六日。でももうその頃には、僕たちは生きてはいないやろうけどな」
 井角はすでに決まっていることのように言った。そして続けて
「こんなこと僕に聞かんでも、あんたも大体分かっているやろうし、真秀ちゃんに聞いたらすぐ分かるのとちがうか」
「日本はどないなるんでしょね?」
「溶岩や火砕流で日本は東西に分断されてしまう。あらゆる災害は日本から始まり、世界に広がるという。光雲師が残した預言歌の通りに世界は進んで行くと思う」
 それは、次のような預言であると、井角は掻い摘んで話す。
 日本から始まった世界的な自然災害は、天変地異の様相を示し世界各地に大災害をもたらすことになる。富士山の大噴火に伴い、溢れ出した溶岩や火砕流が周りの町や村を焼き尽くし、山体は崩壊して高さも半分くらいになってしまう。新幹線や高速道路は分断され、地震や火災も発生して人々は逃げ惑う。その時、空が真っ暗になるほど宇宙から円盤が押し寄せ、地球から老若男女五億の人を選び別天地へ連れて行って救う。その間に地球は火と水で清められて、そこへ選ばれた人々が連れ戻されて新天地となった地球で暮らしはじめる。新地球には夜がなく、年中花が咲き、年中果物が実って鳥や動物までが人と楽しく暮らす楽園となる。その時代では人は食べ物を摂る必要が無くなっているという。

「信じられんような話しやね」
「僕はねえ、光雲先生の預言は大体当たると思うてるよ。どっちにしても僕らはもう生きてはいないだろうけどね」
「でも、生きていて、どんな世界になるのか見てみたいわ」
「子孫の誰かは生きているよ」
「生きるって、死ぬって…どういうことなんでしょね?」
「空海さんが言ったように、結局は何も解らんと言うことやろな」
 空海さんは確かこのように言ったと井角は言い、その詩を思い出して佳与に聞かせる。
 “生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く 死に死に死に死んで死の終わりに冥し”

 これは空海さんが残した『秘蔵宝鑰(ひぞうほうやく)』に残されているものだと井角は言い、
「空海さんですら、何も解らなかったということやないかな」
「人は、生まれては死に、死んでは生まれ、ということを繰り返しているんやったら、前世も来世もあるのかもねえ」
「来世でも、佳与さんと会いたいねぇ」
「わたしも、あんたと又会いたいわぁ」

                             丹生伝説 完                                     
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丹生伝説(旧 真朱の姫神)を長らくご愛読いただきありがとうございました。
この物語は、2001年1月1日に「もう一つの大和物語」と副題をつけて連載をはじめたものです。途中休筆していた期間もあって、完結まで足かけ15年かかりました。
思い返しますと、私がホームページを始めたのは、この物語を世間に出したいが為でした。。それで、2000年の11月にHPを開設、「吉野へようこそ」のタイトルを付けて吉野関連の情報を発信し始めました。
そして年明けの1月1日から“真朱の姫神”の連載をはじめたのです。
計画では「現代編」「飛鳥編」「ヤマト編」と、全3部作で終了しようと思っていました。そして予定通り、この3編は約半年で書き上げました。
ところが、何年か過ぎると続編が書きたくなりました。それで8年後に第4部「黎明編」を書いたのでした。その頃から第5部を、「未来編」として書き、完結させようと決めたのです。
この第5部は「預言書」のようなものになり、予定より書き上げるのが長引きましたが、何とか2015年中に完結させることができました。全編通してお読みいただければ幸いです。

●読後感や寸評など、お寄せいただければ嬉しいです。今後の創作活動への励みや勉強になります。

【丹生伝説】は、作者マルヤが創作したモノ語りです。
実話ではなくフィクションですので、特定のモデルはありません。また、物語の中に登場する国の名も、実在する国名を借りていますが、すべてが事実ではありません。